縁側に腰掛けて 夜風にあたり 風呂上がりの身体の火照りを鎮める 初めて 此処で一夜を過ごす この時代の星空は 想像以上に美しいもので まるで吸い込まれてしまいそうな―― 「空ばかり眺めて 家が恋しいの?」 「・・・・えっ?」 いつの間にか 私の隣に利発そうな女性が座っていた この学園に居る人達は基本的に 気配を消す事が上手いようだ 「私は山本シナ、この学園の一教師よ」 「宜しくお願いします…私はです」 「貴方が…学園長の仰られてた“娘さん”ね」 先生が にこりと微笑んだ 「さん それ、嘘でしょ?」 身体の火照りが 瞬く間に冷めた 「…先生は…どうして、」 「学園長はすっかり忘れてるようだけど 私は幼少期の彼女の顔をよく覚えているの」 先生の右手が 私の頬に触れた 「ちょっと顔が違うわ、あの時の子が 目の前に居る貴方とは思えない」 「………………」 「…でも不思議なのは 貴方も…南蛮のものなのかしら、不思議な着物を着ている事 貴方も貿易商の関係なの?……それとも あの星のどれかから降りてきたのかしら」 そう言って 先生が空に広がる数多の星を指差した 「…なーんてね」 「……自分の…思いつきで“娘さん”の肩書きを借りてしまって 私 本当に」 「学園長には言わないから安心してちょうだい、貴方には危険な香りが一切しないもの」 危険な香り、とは 暗殺でも企てているような時に発せられる香りであろうか 「貴方が何を思ってそうしているのかは解らない、けど 裏切れるような顔をしていないわ」 「…本当に 有難うございます」 私が あの娘さんの仮面を被ってまで此の場に居るのは 彼の許を離れたくないから、だろうか 恋心らしき感情の芽生えは 私に図々しさというものも同時に身につけてしまったのか しかし こんな事をいつまでも続ける度胸も資格も無い 深みに嵌ってしまう前に さよならしなければいけないのに 先生と別れた後 使用許可の下りた一室に敷かれた蒲団に潜る しかし 未だ眠れそうにない 天井のシミを数えながら 睡魔の襲来を待つ 微かに 遠方から声が聞こえる 生徒ではないし 何かのお祭りでもない ・・・戦か? 「…あっちも戦 こっちも戦 そんな時代だったね、そういえば」 此処に居る人達は とても優しい けれど 私の知らない顔、戦う顔も持っているのだろう 脳裏に過ったのは まだ学園の存在すら知らない時 トリップ直後 目の前に 血を流している人が倒れていたあの光景 戦国時代なのか幕末なのかは結局判らないが 私は結果的にあの人を見殺しにしてしまった そんな私が 戦と隣合せであるこの場所に居る事は 間違いなのではないか 「・・・・駄目だ、眠れない」 寝返りをうっては溜息を吐く 微かに聞こえるその音に 私は黙って耳を塞いだ 08 night 翌朝 己のキャパシティを超える出来事が起こる事を この時の私はまだ知る由も無かった NEXT → (09.9.27 音が近づく) |